人工死産の入院初日|産道を広げる処置が始まった【2026年8月17日】

9時45分。

病室へ入った。

羊水検査で21トリソミー陽性が確定して、

そのまま人工死産のための入院が始まった。

まだ朝だった。

今日一日が、

どんなふうに終わるのか分からなかった。

目次

10:05|最初の産道拡張の処置

看護師さんに呼ばれて、処置室へ向かった。

診察台に上がる。

何をされるのか、細かいところまでちゃんと理解できていたわけではない。

処置の前に、先生に聞かれた。

「エコー見る?」

見られなかった。

つらくて、見ることができなかった。

8月7日の羊水検査のときは、育っている赤ちゃんを見た。

昨日も、お腹を撫でながら、一緒に景色を見た。

でも今日は、見られなかった。

産道を広げるための管を入れる。

そして、管が出てこないようにガーゼを詰める。

タンポンよりずっと長いような感覚がした。

実際に見たわけではない。

ただ、そう感じた。

痛みよりも、

「これが始まったんだ」

という感覚の方が強かった。

人工死産のための処置。

赤ちゃんを産むための準備。

それが、本当に始まってしまった。

10:15|最初の処置が終わった

お腹に違和感を感じながら、処置室を出た。

出血をしていた。

ナプキンは持ってきていたので、よかったと思った。

次に管を増やす処置は夕方だと言われた。

それまでは、病室で過ごすことになった。

10:20|新生児とすれ違う

病室へ戻る途中、エレベーターで新生児とすれ違った。

とても小さかった。

生まれたばかりの赤ちゃん。

病棟のあちこちからも、赤ちゃんの泣き声が聞こえていた。

可愛い声だった。

不思議だった。

悔しいとか、

憎いとか、

そういう気持ちはなかった。

ただ、

涙が出た。

赤ちゃんが泣いている。

ちゃんと生きている。

その声を聞いて、

私は「幸せのお裾分けみたいだな」と思った。

でも、

涙は止まらなかった。

どうして泣いているのか、

自分でもよく分からなかった。

この子たちに、幸せだと思える時間がこれからたくさんありますように。

そんなことを思った。

11:26|看護師さんの優しさ

看護師さんが何度も様子を見に来てくれた。

手首のバンドをつけたり、排尿や排便の記録用紙を持ってきてくれたりした。

私がこれから死産をすること。

ひとりで入院していること。

きっと、

気にかけてくれていたんだと思う。

優しい人だなと思った。

こういうときほんの少し優しくされただけで、涙が出てしまう。

11:40|赤ちゃんを見たい

喉が渇いたので自動販売機を探した。

新生児室の近くにあるらしい。

「赤ちゃん見られるかな」

少しだけ、そんなことを思った。

自分でも驚いた。

私は、赤ちゃんを見たいと思っていた。

やっぱり私は子どもが好きなんだな。

そう思った。

憎いとか、

悔しいとか、

そういう気持ちではなくてよかった。

でも、新生児室のカーテンは閉まっていた。

少し残念だった。

リンゴジュースを買った。

飲みながら、

「パイナップルみたいな味がするなぁ」

なんて、どうでもいいことを考えていた。

こんな日でも、そんなことを思う自分がいた。

12:00|病室で食べた昼食

昼食が運ばれてきた。

栄養バランスの整った食事。

ありがたいと思った。

つわりはまだ残っていたけれど、少しずつ食べられるようになっていた。

この日は完食できた。

一つひとつ、料理に感想を言いながら食べた。

もちろん、ひとりごと。

美味しかった。

食べながら、涙が出た。

食事をしている。

ちゃんと食べている。

自分は生きようとしている。

そのことが、なんだか苦しかった。

涙も一緒に食べているような気がした。

14:25|夕方の処置を待つ

昼食後、少し眠った。

次の処置は夕方と言われていた。

でも、夕方って何時なんだろう。

なかなか呼ばれない。

部屋に入っていた日差しが、だんだん消えていった。

部屋が少し暗くなった。

気持ちまで暗くなる気がした。

電気をつける気にもなれなかった。

動画でも見ればいい。

時間をつぶせばいい。

そう思っていたのに、

何もする気になれなかった。

机に突っ伏して、自分の呼吸する音を聞いていた。

ご飯を食べる。

呼吸をする。

お腹も空く。

自分ばっかりこれからも生きようとするんだよな。

「あーあ。あーあ。」

17:22|2回目の産道拡張

ようやく処置室へ呼ばれた。

診察台に上がる。

午前中に入れた管を抜いて、新しいものへ入れ替える。

今度は本数が増える。

膣を広げる器具が痛かった。

思わず声が出た。

先生の声が聞こえた。

「もう少し」

「あと一本」

最終的に6本入れることになった。

どのくらいの大きさになっているのか。

怖くて聞けなかった。

お腹には、鈍い痛みと圧迫感があった。

座るのも少し怖かった。

明日から陣痛を起こすための薬を使う。

これはその前の準備。

そう思った。

赤ちゃんが出てくるとき、少しでも苦しくありませんように。

「出てくるときは、なんのストレスもなく出てこられるといいね」

「世界は明るいよ」

「明日会えるね」

お腹に話しかけた。

17:29|病室へ戻る

病室へ戻った。

お腹の圧迫感が続いていた。

処置室を出るとき、血のついたペーパーが見えた。

出血したのかな。

ぼんやりそう思った。

気がつくと、また涙が出ていた。

声を上げて泣いているわけではない。

ただ、ぽろぽろと涙が落ち続けた。

外からは、赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

私は同じ病院の中で、正反対の場所にいるような気持ちになった。

18:00|最後の夕食

夕食が運ばれてきた。

明日は食事をとらない予定になっていた。

これが出産前の最後の食事になると思っていた。

お腹には生理前のような重さと、鈍い痛みがあった。

休みながら食べた。

つわりのころから、お腹が空くと気持ち悪くなることが怖かった。

だから、「明日お腹が空いたらどうしよう」そんなことまで考えていた。

また、食べながら泣いた。

食べることは、生きることなんだなと思った。

意識しなくても、身体は生きようとしている。

咀嚼しながら、いろんなことを考えた。

お腹を触った。

「美味しいね」

「ありがたいね」

そう話しかけた。

そして、

赤ちゃんに言った。

「今日でご飯、終わりなんだよ」

明日。

陣痛を起こす。

赤ちゃんを産む。

夕食を終えた。

お腹にはまだ、処置の圧迫感が残っていた。

これから夜が来る。 赤ちゃんと過ごす時間を、私はひとりで数え始めた。

この記事を書いた人

不妊治療、妊娠と喪失、子どもを迎えるための準備、仕事、資格、旅。
選んで、つくって、生きていく途中の記録を、YACONOMAに残しています。

※このブログでは、当時のメモや写真を見返しながら、過去の出来事も時系列に沿って記録しています。
記事の公開日と、書いている出来事の日付が異なる場合があります。

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