Xを開いているときに、たまたま見かけた記事。
それは、21トリソミーで3本になっている21番染色体を、CRISPR-Cas9という技術を使って3本から2本にした細胞が確認された、という内容でした。
え、本当!?
自分にも関係することだから、すごく気になって……。
実際に論文を確認してみました。
読まずにはいられなかった、というほうが正しいかも。
三重大学のホームページに書かれている説明のほかに、英語で書かれた原著論文がありました。
翻訳して読んでみたけれど……
意味がわからない。
専門用語も多いし、そもそも私にはわからないことが多すぎました。
だから、AIの力も借りながら、原著論文や三重大学の発表を一つずつ確認してみることにしました。
私と同じように、
「気になる。知りたい。でも論文を読んでもよくわからない」
そんな人へ向けて。
そして私自身があとから読み返せるように、今回わかったことをできるだけ簡単に残しておこうと思います。
誰かの役に立ちますように。
※この記事は2026年10月時点で確認できる研究内容をもとに、専門家ではない私自身が理解するためにまとめたものです。今回紹介する研究は、体外で培養した細胞を使った細胞レベルの概念実証研究です。人への治療として確立された技術ではありません。三重大学もこの点を明記しています。三重大学
本当に「余分な1本」を取り除いたの?
まず私が気になったのはこれ。
本当に、余分な21番染色体を取り除いたの?
結論からいうと、
21番染色体が3本から2本になった細胞が、実際に確認されていました。
21トリソミーは、通常2本ある21番染色体が3本ある状態です。
すごく簡単にすると、

となった細胞が確認された、ということ。
三重大学の研究グループは、21トリソミーの人に由来するiPS細胞などを使い、CRISPR-Cas9で3本ある21番染色体のうち特定の1本を標的にして、その染色体が失われるようにする方法を研究しました。PubMed Central (PMC)
いやいや。
そんなことできるの?
と思いました。
どうやって③だけを狙うの?
次に思ったのがこれ。
①②③と3本あるとして、
③を狙いたい。
でも、
どうやって③だけを見分けるの?
①や②まで一緒に傷つけてしまったら困るよね。
そこで使われたのが、
CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)
という技術です。
よく「遺伝子のハサミ」と呼ばれているもの。
ものすごく簡単にいうと、ガイドRNAというものを使ってDNAの狙った場所へCas9を導き、DNAを切断することができる技術です。
今回の研究で重要なのは、3本の21番染色体を全部同じように狙ったわけではないというところでした。
3本の21番染色体はよく似ています。
でも、DNA配列にはそれぞれ小さな違いがあります。
研究チームはその違いを利用して、
「3本のうち、この1本を狙う」
という方法をとりました。

実際には、選んだ1本の21番染色体に特異的な複数の標的配列を使い、CRISPR-Cas9で複数箇所を切断しています。
その結果、標的にした21番染色体が失われ、21番染色体が3本から2本になった細胞が確認されました。 PubMed Central (PMC)
もちろん、実際はこんなに単純な話ではありません。
でも私には、
「3本を適当に切ったのではなく、DNAの違いを利用して特定の1本を狙った」
と考えるとわかりやすかったです。
「最大37.5%」って何?
最初に見た情報には、
「最大37.5%の頻度で過剰な染色体を除去」
と書かれていました。
……37.5%って何?
私はここもよくわかりませんでした。
原著論文のFig.4を見ると、処理前のiPS細胞では、染色体を観察した19細胞すべてが47本で、21番染色体を3本持っていました。
そして処理後に染色体を観察した40細胞では、
25細胞が47本のまま。
15細胞が46本になっていました。
つまり、
15 ÷ 40 = 37.5%
です。
この15細胞では、標的にした21番染色体が失われ、21番染色体が2本になっていました。PubMed Central (PMC)
だから、
「21トリソミーが37.5%治った」
という意味ではありません。
人の身体の37.5%の細胞が変わった、という意味でもありません。
研究室で行われたこの実験で、処理後に染色体を観察した40細胞のうち15細胞で、21番染色体が3本から2本になっていた。
その割合が37.5%でした。
ああ、そういうことか。
実際の染色体も見てみました
この結果は、原著論文のFig.4で確認することができます。
Fig.4には、処理前の21トリソミーのiPS細胞と、処理後に21番染色体が2本になった細胞の実際の染色体画像が掲載されています。PubMed Central (PMC)
数字だけだと「37.5%って何?」となったけれど、実際の染色体の画像を見ると、私にはかなりわかりやすくなりました。
※リンク先は英語の原著論文です。「Fig. 4」が該当する図です。
ところで、iPS細胞って何だ?
ここまで読んでいたら、
「iPS細胞」
という言葉が何度も出てきます。
聞いたことはある。
でも、
iPS細胞って何だ?
となりました。
ものすごく簡単にいうと、皮膚などの身体の細胞に特定の因子を加えて初期化し、いろいろな種類の細胞へ変化できる能力を持たせた細胞です。
研究のために増やしたり、別の種類の細胞へ変化させたりすることができます。
今回の研究では、21トリソミーの人に由来するiPS細胞を使って実験しています。PubMed Central (PMC)
そして、
「じゃあiPS細胞だからできただけなの?」
と思ったら、そこも調べられていました。
普通の身体の細胞でもやっていた
研究チームはiPS細胞だけでなく、21トリソミーの人の皮膚に由来する線維芽細胞でも実験しています。
論文には「線維芽細胞」という名前で出てきます。OUP Academic
また知らない言葉。
線維芽細胞って何だ?
線維芽細胞は、皮膚などの結合組織に存在し、コラーゲンなどを作る細胞の一種です。
要するに私は、
「iPS細胞という研究用に作られた状態の細胞だけじゃなくて、皮膚由来の細胞でも試したんだな」
くらいに理解しました。
そして線維芽細胞でも、標的にした21番染色体が失われることが確認されています。
さらに論文では、分裂していない線維芽細胞でも染色体の喪失が確認されました。
ただし、その効率は実験条件によって異なります。iPS細胞で確認された「37.5%」が、そのまま身体の細胞にも当てはまるという意味ではありません。OUP Academic
へえ。
……でも、ここで私はまた疑問。
でも、人間の身体って細胞だらけだよね?
細胞でできた。
それはわかった。
でも人間の身体って、ものすごい数の細胞でできています。
じゃあ、
身体中の細胞を一個ずつ①②③→①②にするの?
そんなことできるの?
そもそも私は、
「21トリソミーって、一個の余分な染色体が身体のどこかにある」
みたいなイメージを、どこかで持っていたのかもしれません。
でも違いました。
一般的な21トリソミーでは、身体を作っていく細胞が21番染色体を3本持っています。
①②③を持った細胞が分裂して、
①②③ ①②③
さらに分裂して、
①②③ ①②③ ①②③ ①②③……
と細胞が増えていきます。
※21トリソミーにはモザイク型などもあるため、すべての人がこの単純な説明に当てはまるわけではありません。
そこで私は思いました。
……じゃあ、もっと最初だったら?
ここからは、今回の研究で実際に行われたことではありません。
論文を読んでいて、私が考えた未来の話です。
今回の研究で使われたのは、体外で培養したiPS細胞や線維芽細胞です。
受精卵や胚を使って、21トリソミーを修正した研究ではありません。 PubMed Central (PMC)
それを理解したうえで、それでも私は考えました。
もし、身体中にたくさんの細胞ができてしまう前。
まだごく初期の段階で、

と、安全かつ正確にできる技術がいつか実現したら?
そして、その①②の細胞が分裂していったら?
その先にできる細胞も①②を受け継いでいくのだろうか?
そんなことを考えました。
でもこれは、今回の研究から「できる」とわかったことではありません。
今回の研究で受精卵や胚を使ったわけではありません。
人に対して行ったわけでもありません。
今、そんな治療ができるわけでもありません。
実際に人へ応用するためには、目的とする染色体だけを安全に失わせられるのか、残った染色体やほかのDNAに意図しない変化が起きないのか、目的の細胞へどう届けるのかなど、まだ多くの技術的・安全性上の課題があります。
原著論文でも、CRISPR-Cas9による切断後に残った染色体のゲノム変化などが調べられており、著者ら自身がさらなる安全性の検討が必要であることを示しています。PubMed Central (PMC)
受精卵や胚へ応用するとなれば、それに加えて次世代へ影響が受け継がれる可能性や倫理的な問題も考えなければなりません。
だから、
「21トリソミーを治せるようになった」
という話ではありません。
「受精卵から余分な染色体を取り除けるようになった」
という話でもありません。
でも。
そんな未来が、いつかあるのかもしれない。
私はそう思いました。
じゃあ、今はどうする?
ここで私が思い浮かべたのが、
PGT-A
でした。
私はこれから不妊治療を再開する予定で、PGT-Aを受けようと思っています。
PGT-Aは、正式には着床前胚染色体異数性検査。
ものすごく簡単にいうと、体外受精でできた胚盤胞から一部の細胞を採取し、その細胞のDNAを調べて、染色体の数などに異常がないかを調べる検査です。
日本産科婦人科学会の細則では、原則として胚盤胞の栄養外胚葉細胞を採取し、そのDNAを解析して染色体の数的あるいは構造的な異常を判定するとされています。公益社団法人 日本産科婦人科学会
つまりPGT-Aは、
余分な染色体を取り除く治療ではありません。
今回の研究とは、まったく違います。
ものすごく簡単に分けるなら、
PGT-A → 染色体を「調べる」
今回の研究 → 染色体そのものに「介入する」
という違い。
もちろんPGT-Aも、胚のすべての細胞を一つずつ調べる検査ではありません。
採取した一部の細胞を調べる検査です。
だから「PGT-Aをすれば絶対に大丈夫」というものでもありません。
でも、今の私が使える技術の一つはPGT-Aです。
今回の研究を知って、
いつか「調べる」の、その先ができるのかもしれない。
と思いました。
技術ってすごい
私は自分の妊娠をきっかけに、21トリソミーについて調べるようになりました。
死産したことは、今でも苦しいです。
でも、あの経験があったから、以前の私ならそのまま通り過ぎていたかもしれない記事を見て、
「本当!?」
と思うようになりました。
英語の論文まで開いて、
意味わかんない。
CRISPR-Cas9って何?
iPS細胞って何?
37.5%って何?
細胞が変わったってどういうこと?
じゃあ身体ができる前だったら?
と、一個ずつ調べていました。
今回の研究では、21番染色体が2本になったiPS細胞で、遺伝子発現だけでなく、細胞の増殖や活性酸素に関係する性質にも変化が確認されています。
つまり、「染色体が1本なくなった」ということだけではなく、その後の細胞の性質にも変化が確認されたということでした。PubMed Central (PMC)
死産したことは苦しいけれど、こうやって新しいことを知る機会ができていることは、私は嬉しいです。
今回の研究が、この先どうなるのかはわかりません。
本当に人の治療につながるのかも、私にはわかりません。
でも、
未来には、余分な染色体そのものに安全に介入できるようになるのかもしれない。
そんな未来があるかもしれない。
技術ってすごいわ。
でも、それはまだ未来の話。
だから私は今、PGT-Aに頼ります。
そして、この研究の続きも見ていきたいと思います。
今回読んだもの
三重大学|ダウン症候群の人の細胞から過剰な21番染色体を除去
2025年2月19日に三重大学が発表した研究紹介です。三重大学は2025年2月27日に一部記載を訂正しており、現在のページにはその旨が記載されています。三重大学
原著論文|PNAS Nexus
Ryotaro Hashizume et al.
“Trisomic rescue via allele-specific multiple chromosome cleavage using CRISPR-Cas9 in trisomy 21 cells”
2025年2月18日公開
DOI: 10.1093/pnasnexus/pgaf022 PubMed
※今回の研究は、体外で培養した細胞を使って行われた概念実証研究です。人への治療として確立されたものではありません。


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